慎重審議
前回取り上げた「逐条審議」とは異なるのですが、慎重審議という側面では一緒と思われる、現在審議中の法案でとられている審議方法について、紹介します。
国会に今年3月13日に提出された「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」です。
実はこれもこれまで何度も取り上げた、いわゆる「束ね法案」です。
どんな内容か、最初に簡単に説明させていただきます。
まず、内閣法制局の提出理由説明によると、
「刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実化を図るため、取調べの録音・録画制度、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度、証人等の氏名等の情報を保護するための制度等を創設するとともに、犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の範囲の拡大、被疑者国選弁護制度の対象事件の範囲の拡大等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」
次に、どんな法案が束ねられているのか、法務省のWebページを確認すると、
・刑事訴訟法の一部改正
・刑法の一部改正
・検察審査会法の一部改正
・組織的犯罪処罰法の一部改正
・犯罪捜査のための通信傍受に関する法律の一部改正
・国際刑事裁判所に対する協力等に関する法律の一部改正
という感じですが、かなり大きな改正になっています。
例えば、取調べに一部可視化を導入しようとしていること、司法取引制度を導入しようとしていること、通信傍受制度を大幅に変更しようとしていることなどが含まれるからです。
本来、一本ずつを慎重審議すべき大きな改正ですが、行政権から立法権である国会には、束ねて一法案として提出された現実が存在します。
そこで、法案が付託された衆議院法務委員会では、かつての逐条審議とは異なる方式で慎重審議を行っているのです。
どんな方法で慎重審議を行っているのか、というと、法案を改正内容ごとに大きなテーマに分けたうえで、それぞれ対政府質疑、参考人質疑、(視察)、対政府質疑の順序で審議が続けられています。
そのテーマは、4つが予定されていて、現在は2点目の審議中です。
・取調べの録音・録画制度の創設について
・証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について ←イマココ
今後は、
・証拠開示、保釈関係について
・通信傍受制度について が予定されています。
ここで、このブログを書いている7月4日現在、公開されている会議録を確認してみます。
平成27年6月9日:衆議院 法務委員会
○委員長 本日は、特に取調べの録音・録画制度の創設について質疑を行います。
平成27年6月10日:衆議院 法務委員会
○委員長 本日は、本案審査のため、特に取調べの録音・録画制度の創設について、参考人として、(以下略)
平成27年6月12日:衆議院 法務委員会
○委員長 本日は、特に取調べの録音・録画制度の創設について質疑を行います。
平成27年6月16日:衆議院 法務委員会
○委員長 本日は、特に取調べの録音・録画制度の創設について質疑を行います。
平成27年6月19日:衆議院 法務委員会
○委員長 本日は、特に証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について質疑を行います。
ここまでが、国会会議録として既に公開されているものですが、他に一般公開されている範囲で確認できるものとして、衆議院Webページの委員会ニュースがあります。
衆議院法務委員会ニュースによると、下記のとおりです。
平成27年6月30日
証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について(対政府質疑)
平成27年7月1日
証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について(参考人質疑)
平成27年7月3日
証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について(対政府質疑)
本法律案は、5月19日に衆議院法務委員会に付託されていますが、審議予定のテーマはまだ残っていますし、当然、衆議院法務委員会での採決日程も決まっていません。
これは、慎重審議のひとつだと考えており、束ね法案に対して、立法府が取り得る手段なのかもしれないなぁ、という興味を持って、審議の推移を見つめています。
