会期の件
会期の件については、国会法において、常会は150日間と規定(※1)がありますが、臨時会においては都度協議し、議決することとなっています(※2)。
2025年8月5日に閉会した臨時会の会期について、一部で以下のように説明されていますが、事実と異なる説明がなされていることから、事実と異なる部分についてその理由と根拠を解説したいと思います。
まず、一部で説明されていた内容です。この引用は解説を分かりやすくするため、必要最小限としていることを予めお断りするとともに、出典元は伏せておきたいと思います。
「『会期の件』の議決については、衆議院において先議された議案を参議院で待つ必要があります。」
この説明文には、2つの点で事実誤認があり、「先議」と「議案」についての制度の根底に関する誤認です。
会期の件は、確かに衆議院の優越は存在します(※3)が、「先議の院」や「後議の院」という考え方には立ちません。
引用説明文のように、「先議の院」と「後議の院」があるかのごとく表現をするのであれば、そこで扱われるものは両院送付関係にあることを前提としていると考えられます。
「会期の件」については、国会法第11条において「両議院一致の議決で、これを定める」こととされ、衆議院規則第20条では、「臨時会の会期は、議長が各常任委員長の意見を徴し参議院議長と協議した後、議院がこれを議決する。」、参議院規則第22条では、「臨時会及び特別会の会期は、議長が衆議院議長と協議した後、議院がこれを議決する。」といった定め方であり、協議を行うこととされていますが、送付関係がある規定ぶりとはなっていません。
すなわち、「会期の件」について、先議・後議という関係とはそもそもの枠組みが異なります。もっと端的に言えば、両院送付関係にはなく、議決すれば他院に通知しているだけの関係になります。8月5日付の官報にはその旨明記されており、衆議院と参議院がそれぞれ会期の件を議決した結果を他院にそれぞれ通知しています。
〇衆議院先例7号「会期及び会期の延長の通知は、議決の当日にする。特別会及び臨時会の会期を議決したとき、又は国会の会期の延長を議決したときは、議長は、当日直ちにその旨を参議院及び内閣に通知する。」
〇参議院先例31号「会期、会期の延長又は休会を議決したときは、即日その旨を衆議院及び内閣に通知する」
次に、「議案」についての誤認です。
会期の件は、議案に分類されません。
ただ、議院法規に議案の定義はありません。
その上で、『議会用語事典』という書籍においては、以下のように説明されています(※4)。
議案とは、通常、次の要件を備えたものをいう。
・国会の議決を要する。
・両院送付関係にある案件(いずれかの議院が先議院となり、他の議院が後議院となる関係に置かれる案件)
であって、かつ
・案を備えたもの(したがって修正可能なもの)
しかし、「3要件のすべてを満たさない案件でも議案として扱われるものがある」
とされています。
会期の件は、国会の議決を要しますが、両院送付関係にあるものではなく、案を備えたものではありません。議案として解するには、最後の「3要件のすべてを満たさない案件でも議案として扱われるものがある」、という可能性が残りますが、これも否定されます。
その解は、衆議院公報にあります。
先般の臨時会の会期終了日の8月5日付の衆議院公報(※5)を見てみると、こうあります。
「第218回(臨時)国会において本院に提出(予備審査のための送付を含む。)された議案及び重要動議は5件である。また、本院において前国会から継続した議案等は72件である。質問は21件である。これを分類すれば次のとおりである。
●議員提出議案 1件
●重要動議 3件
●参議院議員提出法律案(本院予備審査)1件
●本院において前国会から継続した議案等 72件
●質問 21件」
上記の中で、会期の件が何に分類されているかというと、「重要動議」なのです。その記載ぶりは、次のとおりです。
「●重要動議 3件
〇可決したもの 3件
一 第218回(臨時)国会の会期は8月5日まで5日間とするの件(議長発議)
(二及び三 略)」


すなわち、会期については、議長が会議体の決定を求めて提議しているということであり、少なくとも衆議院において「議案」に分類されていないことは、衆議院公報を見ても分かることです。
冒頭、「議案及び重要動議」と書かれているのは、重要動議は「議案」とは異なる位置付けにあると解されていることによるためです。
これらの説明で「会期の件」については、「先議」でも「議案」でもないということをご理解いただけたのではないかと思います。事実の説明が大事だと思い、解説させていただきました。
また、折を見ていろいろ解説したいと思いますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。
※1 国会法第10条 常会の会期は、150日間とする。(以下略)
※2 国会法第11条 臨時会及び特別会の会期は、両議院一致の議決で、これを定める。
※3 国会法第13条 前二条の場合において、両議院の議決が一致しないとき、又は参議院が議決しないときは、衆議院の議決したところによる。
※4 『議会用語事典』(平成21年、学陽書房)124頁。
※5 第218回国会衆議院公報第4号(3)(令和7年8月5日)101、102頁。
