インフラ産業と電力システム改革
私は学生時代の4年間、インフラ産業のひとつである運輸企業でお世話になり、社会人になってからの7年4か月もインフラ産業である通信事業者に身を置いた。
ゆえに所属委員会は情報通信を所管する総務委員会だが、一度だけ総務委員会を離れたことがある。経済産業委員長の任にあった2014年9月~2016年1月までの間、野党委員長でありながら総理入りの委員会質疑を主宰した経験を有している。
最近の議会構成に鑑みると、野党議員が委員長をしている常任委員会で総理入り質疑が入ることは稀なのだが、その法案は電力システム改革第3弾で総仕上げとなる「電気事業法等の一部を改正する等の法律案」であった。
常任委員長は中立・公正の立場であり、そもそも委員会で質疑に立つこともないのであるが、大きな法改正でもあり、当該法案について勉強した際、2016年2月以降、事あるごとに取り上げ続けている「束ね法案」に対する疑問を抱いたこともあり、印象深い。
このときの電事法等改正案は、電力の発送配電分離や電力小売りの全面自由化を含め、ガス、熱供給など7法律の束ね法案であり、これらを束ねて審議することは立法府の側からすれば疑問を抱かざるを得なかった。
本法案の本会議における委員長報告では、束ねられている法律の数まで言及したが、電力・ガス・熱とそれぞれが大きな改正であったためである。いずれにせよ、本法案は成立し、委員会審議において慎重な意見が出ていた問題や附帯決議で指摘されていた課題が、今年に入ってからの国際情勢や酷暑等によって明るみになっている。
ここでの詳述は避けたいと思うが、自由化に伴って採算のとれない老朽火力発電所の停止などもあり、急激な需要変動に対応しにくくなっているのは事実であろう。
私は上記の法案審議に先立ち、2015年3月に四国電力の阿南発電所を視察した。その際にも、再生可能エネルギーと火力のバランス、特に太陽が出ている間は火力を低出力、もしくは止めざるを得ず、そうでない場合に発電機を起動して出力するとなると、定格の出力で運転することにはならず、基本的に効率が良いとは言えないといった問題点をうかがった。
上記のような問題意識とともに、運転を止めていた老朽火力発電所を動かすことによる問題点なども直接見聞きしたのであるが、その際の記録を以下に示して、今後の安定的な電力供給の在り方やカーボンニュートラルを掲げる中でのエネルギー構成の在り方を改めて考えてみたいと思う。
〇2015(平成27)年3月 阿南発電所視察
徳島・阿南発電所は、1961(昭和36)年に当時の高度成長期に呼応して急増する電力需要に対し、四国東部の供給力を増強するために建設された発電所です。
阿南発電所は、1号機から4号機まであり、最初に運用開始された1号機は1963(昭和38)年7月から、4号機は1976(昭和51)年12月からとなっており、4号機の運用開始年は、私が生まれた年と同じです。
1・2号機は稼働状況や運転の維持管理コスト、設備の老朽化を踏まえ、長期計画停止の運用に入っていました。
しかし、2011(平成23)年3月の東日本大震災を受け、原子力発電所の停止に伴い、電力需給が厳しいこともあり、2011(平成23)年12月、2号機は運転再開をしています。
2014(平成26年)4月に閣議決定されたエネルギー基本計画の中でも、震災後は電事法に基づく電気の使用制限や、節電要請等の電力需給対策が講じられた結果、電力の需給バランスは維持されているものの、老朽火力発電所を含め、火力発電をフル稼働させることで補っている状況であることが指摘されています。
老朽火力発電所の稼働に頼らざるを得なくなることで、発電施設の故障等による電力供給不足に陥る懸念もあることから、四国電力・電力総連の皆さまにご協力いただき、老朽火力発電所の実情を視察しました。
上述した阿南発電所の2号機も40年を超える、いわゆる老朽火力発電所に該当します。
資源エネルギー庁がまとめた老朽火力発電所の割合とトラブル件数を概観すると、運転開始後40年以上の火力発電所のトラブルは増加傾向にあります。
今後のエネルギーの在り方を考える際、どのような電源構成にするのか、また現在の電力供給がいかなる努力のうえになされているのか、今回の視察を経て、深く考える契機となりました。
資料等で課題は把握しているつもりでしたが、老朽火力発電所の現状と課題について、今回の視察で、実感を持って理解することができました。
・火力と太陽光のバランスの在り方と課題
・燃料タンクの運用方法改善の現状、消防法との関係
・老朽火力(2号機)を稼働させることによる人員増配置の必要性
・発電所運転状況、総合設備利用率の推移と現状
・現在の供給バランスと予備力との関係
・石油火力発電所(阿南)と石炭火力発電所(橘湾)のコストと現状
・老朽火力不具合時の制御品等調達に係る課題
・原子力発電所と電気料金との関係
上述の点は、今回の視察で気になったポイントを箇条書きにしたものですが、上記から1点だけ紹介したいと思います。
阿南発電所の発電所総合設備利用率推移を概観してみます。
2010(平成22)年度 3% (東日本大震災発生)
2011(平成23)年度 15.3%
2012(平成24)年度 27.5%
2013(平成25)年度 32.0%
2011(平成23)年12月には、本来休止中の2号機を稼働させるなど、上記の利用率の推移は、老朽火力を動かして、四国の電力需給に対応してきた証左ですが、2013(平成25)年度の32.0%は、1977(昭和52)年度の33%に匹敵する数字だそうです。
1977(昭和52)年度は、火力発電全盛期ですので、火力発電全盛期と同等の稼働状況で電力需給バランスを保っていることが数字から見て取れます。
メンテナンス等にもコストが相当かかり、2014(平成26)年末には人的被害は免れたものの配管腐食による事故も発生するなど、様々な課題が山積しています。今後のエネルギー問題を考えるうえで、そして、法案審議に臨むうえで大事な視点を得ることができました(2015年3月)。
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