吉川さおり 参議院議員(全国比例)

コラム

新入社員研修

2022年9月17日

飛行機移動の場合、通路側に座っていることがほとんどなのだが、そのときは隣が空き席になったこともあり、窓側に座った。

それは羽田(東京)から伊丹(大阪)への短いフライトだったのだが、伊丹に近づくにつれ、懐かしい景色が視界に入る。

私の社会人としてのスタートの地は、大阪だった。

新入社員として配属されたのは、NTT大阪支店淀川営業支店(当時)であったが、特色ある立地にビルが建っていることもあり、通勤経路の注意事項とかビルの窓の特徴とかちょっとした思い出も伴っている。

半年弱の新入社員研修を経た後、本配属は本社となったが、大阪支店淀川営業支店時代のことはいろんな意味で決して忘れられない。

今の新入社員研修は全く違うと聞くが、当時は担当地区に飛び込んでいく営業研修が中心で、最初は受注がとれず、まいってしまいそうになった時もあった。まじめに考えすぎたのかもしれないし、最終的にはお客様や先輩のおかげで目標も達成できたのだが、四国にいる両親にもずい分と心配をかけてしまった。

当時のメモ帳を見返すと、「拒否されて当然、話を聞いてくれてラッキー」とか「お客様優先で話していただく」「お客様の声を聞き、今後に反映する」「マイナス思考からは何も生まれない」「とにかく数を回れ、どう工夫し、常に考え、独自の方法を生み出すか」「まじめ、きれいに話し過ぎるな、かっちりし過ぎるな、新入社員らしく」など今にも通じるメモで埋まっている。

その営業研修の思い出同様、強く印象に残っているのが私の時代で最後となった窓口研修だ。

当時、主要拠点ビルにはNTTの営業窓口があり、多くのお客様にお越しいただいていた。

新入社員研修の中心は営業研修であったことから、窓口研修はたった数日間。しかしながら、今でもそのときの課長や先輩社員にはお世話になっている。

たった数日間の窓口研修でしかなかったのに、新入社員時代も、本配属後も、そして私が政治の世界に飛び込むことを決めたときも、連れて行ってくれた十三の居酒屋で壮行会をしてくれ、議員として活動するようになってからもたまにお会いできるのが楽しみだった。

その居酒屋は横丁一体の火災もあり、今はもうない。

そして、NTTの窓口も合理化等により、今はもうない。

2006(平成18)年7月に会社を退職し、全国各地を回る中で、多くの拠点ビルが廃止され、拠点が集約され続けてきた状況を目の当たりにしてきたが、これに先行して、窓口の閉鎖が相次いだ。加入電話の状況が厳しさを増す中、致し方ない側面は理解しなければならないとは思う。

ただ、数値だけではかれないものの大切さも同時にどうしても考えてしまう。

社会を取り巻く環境の変化、時代の趨勢とはいえ、そこで働く方々やコミュニティに与えた影響を考えると、何とも表現し難い辛い気持ちになる。拠点ビルが廃止となり、無人ビルになるということは、その市や町からNTTの拠点がなくなってしまうことにほかならず、そこで働く人にも大きな影響が生じたためである。

また、これまで全国を回る中、閉鎖された窓口にお越しになられたお客様にビル前で偶然遭遇したこともある。そこのビルが無人でなければ誰かが出てきてお客様に対応される姿を見ると切なくなるし、対面だからこそ分かるお客様の要望やニュアンスなどもあり、お客様にとっても働く側にとってもかえって時間を要する結果になっていやしないか、などさまざま考えを巡らすことも多い。

滅多に座らない機内の窓側席から大阪の景色を眺めてこんなことを思っていた。

数日後、窓口研修でお世話になった先輩からプラスメッセージが届いた。議院運営委員会理事会の模様がNHKニュースでちらっとうつったらしい。激励のメッセージとともに「今年度で退職」とあった。

季節の移ろいとともに、私にとって節目となる今年度の上半期がもうすぐ終わる。今年度中に先輩に会えればと思う。