吉川さおり 参議院議員(全国比例)

コラム

束ね法案と一括審議-その1

2015年5月16日

2015年5月26日、我が国の在り方を大きく転換
することになるであろう安保関連法案が、内閣から
国会に提出されました。

このニュースは、詳細の内容はともかく、
多くの方がご覧になったことと思います。

提出された法案は、計2本で、
その内訳は、1本が改正法案、もう1本が新法です。

ただ、改正法案の方は、10本の既存の法律の改正案を
1本にまとめている、いわゆる「束ね法案」となって
います。

政府・与党の立場から見れば、10本の重い法改正を1本の
法案に束ねることで、審議の迅速化を図ることが可能です。

少し具体的に説明します。

今回の法案を個別に提出した場合、1本1本が議論を
呼ぶ改正内容を含んでいますので、法案審議のプロセスを
10回繰り返さねばなりませんが、これらを1本に束ねる
ことで、趣旨説明~質疑~討論・採決・附帯決議の流れを
1回で終わらせることが可能となります。

さらに、今回は、もう1本の新法と併せて一括審議
(2本の法案をまとめて審議)する予定ですので、
立法府における審議の流れは、1本の法案審議の流れと
同じで済むのです。

他方、慎重審議を求める野党の立場
から見れば、大別して2つの問題があります。

1つは、上記の政府・与党の立場と真逆の問題です。

今回の提出法案は2本ですが、うち1本は束ね法案で
あり、さらにいえば、新法のもう1本と併せて一括審議
となることが見込まれています。

本来であれば、所管委員会は複数に跨るものがまとめて
審議されてしまうだけでなく、上述のとおり、法案審議
のプロセスは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議と
変わらないため、充実審議を求め続けても、限界があると
思われます。

慎重審議を求める野党の立場からすれば、我が国の
在り方を大きく転換することになるであろう安保関連
法案を、限られた審議時間で、しかもいわゆる後半国会に
なってから提出された法案の審議を一国会で終えてしまう
ことに、慎重であるはずです。

となると、「会期不継続の原則の例外」に基づき、
継続審議を求めることも考えられますが、与党側が
審議を途中で打ち切る手法も国会ルールの中にあるのです。

もう1つは、法案を束ねたことによる
賛否の判断の困難さです。

野党の中でもそれぞれの立場があると思われます。

仮に、束ねられた10法案のうち、数本なら賛成できる
かもしれない、もしくは修正を加えれば賛成に回れる
かもしれない、という内容が含まれているとします。

個別に法案が提出され、これらが一括審議の扱いに
なっていれば、採決は個別となりますので、それぞれの
法案に対する態度を表明することが可能です。

しかし、今回は、10本の改正法案が1本に束ねられて
国会に提出されました。

束ねられた10法案のうち、1本でも絶対に看過できない
内容が含まれていれば、賛成することは出来ないものと
考えられます。

なぜならば、束ね法案の場合、どれだけの数の法案の
改正が含まれていようとも、外形上は1本の法律案で
あるため、採決は1回のみとなるからです。

慎重審議を求める野党の立場から見ると、束ね法案に
含まれた、それぞれの法案に対する個別の意思表示の
機会が封じられているのも同然です。

日本国憲法における三権分立の観点に立てば、
国会(立法権)は、内閣(行政権)の下請け
機関ではないはずです。

今回は、一刻も早い法案成立を望む内閣(行政権)の
意向を色濃く反映した国会(立法権)への法案提出の
側面は、どの立場に立とうとも、否定しきれなのでは
ないかと考えられます。

私は立法府に身を置く議会人のひとりとして、かねてから、
束ね法案や一括審議に見る問題意識を有していますが、
なぜ問題なのかという点について、次回、具体事例を
交えながら書いてみたいと思います。