議案の提出権と内閣提出法律案
○日本国憲法第72条
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
○内閣法第5条
内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。
「議案」とは、国会各議院の会議で議決されるべき原案として発案されるものの総称です。
憲法第72条は、内閣が提出権を持つ「議案」について、内閣総理大臣が代表することを定めたものであって、内閣に議案提出権を与えたものではありません。しかし、一般に、内閣は、その職務執行に関連して国会の議決が必要となる場合には、そのための「議案」を提出することができると解されています。
他方、内閣に法律案提出権があることを明示した規定は、憲法にはありません。
このため、法律案提出は立法作用の一部をなすこと、および、国会が唯一の立法機関であるとする憲法第41条を根拠に、内閣にこの権限を否定する見解もありますが、通説は、内閣法第5条の「議案」に法律案が含まれるという解釈を前提とし、肯定されています。
では、なぜ内閣提出法律案が肯定されているのでしょうか。何点かの肯定説、一部否定説について概観したいと思います。
[肯定説]
1.法律の発案は、国会の議決権を拘束するものではなく、立法作用の一部分とみなすことはできない
2.議院内閣制の建前上、内閣にも法律案提出権を認めるのが妥当である
3.憲法第72条の「議案」提出権の中には法律案も含まれている
4.国会による慣行的受容によって既に確立している
[否定説(一部)]
3.提出権のある議案についての規定であって、提出権を認める意味での規定ではない
4.憲法に反する慣行を簡単に認めることはできない
肯定説、否定説とも説得的でなく、形式論的ですが、憲法第72条の「議案」の解釈の前提として、内閣に議案提出権があるということと、どのような「議案」を提出できるかは別問題であり、法律案については、本条とは別の根拠を必要とすると考えるべきではないでしょうか。
ただ、第1回国会において、日本国憲法の解釈として、内閣に法律案の提出権があるかどうかが相当議論されており、結局、内閣にも法律案の提出権があることに落ち着いて、今日に至っています。
そして、その後の実例を見ると、立法府たる国会で審議される法律案の大部分は、内閣提出案であるのが通例ですので、実質、内閣に法律案の提出権があると解して差し支えないとは思います。
しかしながら、その提出の仕方が、「束ね法案」であったり、「包括委任規定」を安易に置こうとしたりするものであれば、立法府として厳しく指摘していく必要があるのではないでしょうか。


第1回国会昭和22年7月4日 衆議院本会議 国務大臣答弁
